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経済学を学ぼう(5)-野口悠紀雄著『経済危機のルーツ』(2010.4)を読んで
2010年06月01日

●2007年からの世界的な経済・金融危機については、一般に「100年に一度」の危機との見方がなされています。特に日本では、2008年9月のリーマン・ブラザーズの経営破綻を機に経済不況が深刻化すると、こうした見方がいっそう広がりました。
 しかし、「100年に一度」とはいったいいかなる意味でそういえるのかというと、この点はいまだ必ずしも明確ではないように思われます。

●通常、「100年に一度」という場合、1929~33年の世界大恐慌以来の経済危機という意味です。1929年の大恐慌の際には、ソ連を除く世界の多くの国々・地域が不景気の波にのみこまれ、世界同時不況となりました。
 これに対処すべく、ニューディール政策などが行われ、以後の資本主義は、国家が経済過程に大々的に介入する体制をとるようになりました。大きな政府が形成され、その下で福祉国家体制が形成されることになりました。これは、19世紀の資本主義のあり方とは大きく異なるものであり、まさに大転換といえるものでした。

●しかし、今回の経済・金融危機は、果たしてそれほどの大きな転換を資本主義経済にもたらしているのでしょうか。どうもそのようには思えません。「100年に一度」というのは、マスコミ特有の大げさな言い方に過ぎないのではないかと思えてなりません。

●そのような折、この問題に対する一つの考え方を示した本が出版されました。野口悠紀雄著『経済危機のルーツ』(東洋経済新報社、2010年4月)です。
 野口氏は、学会だけでなく一般読者にも広く人気の経済学者です。同氏はまず、今回の経済・金融危機は「世界経済の大転換」といったものではなく、「80年代以降の世界経済の方向は、基本的には変わらない。」といいます。
 では、経済・金融危機の意味は何かといえば、「企業と産業の、そして国家の、壮大な選別過程」であったとします。つまり、80年代以降資本主義経済は、企業や産業の中心が製造業であった時代からIT産業や金融業などが中心となる脱工業化の時代へと変化しはじめます。これを基盤に、経済のグローバリゼーションが急速に進み、その流れに乗ったイギリス、中国、インドなどの国々が経済発展を実現していくことになります。今回の経済危機は、こうした新旧の交代を更に進めることになるというのです。そして、その新旧交代に乗り遅れたことで、日本経済は先進諸国の中で最も停滞を余儀なくされ、「失われた20年」に陥っているとしています。

●大きな意味での歴史認識などはとりあえず措くとすれば、当面の世界経済や日本経済の現状についての理解としては、共感するところが少なくないといえます。
 叙述は一般読者を想定して、とても平易に書かれているので、経済学部所属ではない本学の学生たちにも、十分楽しめる内容と思います。今まさに起きている日本経済と世界経済のダイナミックな変化を、この際じっくりと眺めてみてはどうでしょうか。

(長谷部孝司)