●日本銀行が作成している代表的統計の一つに「資金循環統計」があります。これを利用すると、いろいろなことがわかりますが、例えば、家計の金融資産の状況もわかります。
図表「家計の資産構成」は、日本銀行のHPに掲載されている資料です。日米の家計が、金融資産をどのような形で保有しているかを比較したものです。これを見ると、日米の違いが明らかです。
①日本では、「現金・預金」が高いが「債権」「投資信託」「株式・出資金」は低い。
②逆にアメリカでは、「現金・預金」は低く「債権」「投資信託」「株式・出資金」が高い。
③「保険・年金準備金」は両国ともほぼ同じ程度である。
●アメリカでは、家計が「投資信託」「株式・出資金」「保険・年金準備金」に投じたお金が、証券市場などを通じて、IT関連などの新産業・企業へ流れました。それによって、90年代にはIT関連の企業が発展し、「IT革命」などによって経済の競争力が回復しました。
そこで日本もこれに倣って、家計の金融資産が「投資信託」や「株式・出資金」などへ流れるようにして、それによって新産業・企業の育成・発展を図ろうと考えました。「金融ビッグバン」や「貯蓄から投資へ」という改革は、こうしたねらいを持っていました。
●結果はどうだったでしょうか。日本でも投資信託がほんの少しですが増える傾向が見えました。気持ち程度ですが、「貯蓄から投資へ」が進んだと言えるかも知れません。しかし、全体としてはやはり大して進んでいないといわざるを得ません。なかなかねらいどおりに行きません。
●全体として「貯蓄から投資へ」がなかなか進まない中で、もう一つ困ったことが起きています。例えば、投資信託は若干ながら資金量が増えましたが、ここで問題なのはその先です。投資信託は、集めた資金をいったいどこに投資しているのでしょうか。
これをまた日米で比較してみると(図表「投資信託の資産構成」日本銀行HPより)、日本では「対外証券投資」が非常に多いことが特徴になっています。つまり、日本の投資信託は、集めたお金の多くを日本国内の新産業・企業に投資するのではなく、海外に投資しているのです。これでは、仮に「貯蓄から投資へ」が進んだとしても、日本では新産業・企業の発展にはつながりません。
●こうした問題は、実は投資信託よりも多くの資金を保有している「保険・年金準備金」でも起きているのです。
同じく日本銀行の資料によると、2010年3月末時点で、日本の「保険」は集めた資金の内、12.2%を「対外証券投資」に投じていますが、アメリカでは、図表に乗っていないところを見るとほとんどゼロのようです。「年金基金」でも、日本では25.1%を「対外証券投資」に向けていますが、アメリカではほとんどゼロのようです。
●いま日本では、既存企業は海外進出をますます進めており、その結果、高卒者や大卒者といった若者たちが、国内で働く場所を見つけることがますます厳しくなっています。こうした就職難を緩和するためには、もはや既存産業に頼るだけでなく、国内に新産業・企業を育てることが必要でしょう。
しかし、いま見てきたように、日本では金融機関が資金を集めても、それを国内の新産業・企業の育成・発展にうまく供給することができない状況になっています。新産業・企業への円滑な資金供給を可能とする金融システムを工夫することが、依然として必要な状況といってよいでしょう
(長谷部孝司)