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観光文化学科からのお知らせ

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花も実もあるくらしの植物苑:フィールドミュージアムにすすめ002
2010年09月06日

花は、率直にいえば生殖器である。

このことばは、植物図鑑にその名を冠する牧野富太郎博士が素人むけに書いた『植物知識』(講談社学術文庫、1981年)の巻頭にある。種子をつくるために花はある。子孫を継ぎ種属を絶やさぬことにその目的がある。しかし多くの人は、この花の真の目的を歎美するのではなく、ただその表面に現れている美を観賞するにすぎないと、この植物学者はいう。

夏の風物に朝顔市がある。上の写真は、朝顔の花です。なみのアサガオとはちがいますが、これもアサガオです。でも、ここは朝顔市ではありません。

千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館*、略称「れきはく」のある佐倉城址公園に「くらしの植物苑」がある。ある夏の平日、朝早くからカメラを構えるひとびとでにぎわっていた。上の写真は、ここの「変化朝顔」のひとつ(8月26日筆者撮影)。説明版に「出物系統 636 一重出物、青/渦/柳葉、江戸紫/采咲(さいさき)」とある。

かたちの珍しさを競う変化朝顔のうち、花や葉の変った度合いが高く観賞価値の高いことを「良い芸をしている」という。「花芸」「葉芸」という表現もある。江戸時代後期の都市では園芸が流行し、奇抜なかたちの品種が好まれ、十九世紀はじめの文化文政期に変化朝顔の第一次ブームが到来した。園芸は演芸と通じていたのだ。

「くらしの植物苑」の「伝統の朝顔」展示は種類が多い。朝顔はその名の通り日が高くなるとしぼんでしまう。早朝が勝負。開園の時刻も企画展示の期間中はふだんより1時間早い。一日かぎりの花を、毎日多彩にそろえて開花させる技におどろく。写真をとりにくるひとの意識は美的なカメラアングルに集中するが、その美は結局、交配実験の成果なのである。生殖の結果そのもの。「出物」は実を結ばないから「結果」しないが。

鉢植えだけでなく、地面に植えて棚にはわせたアサガオもある。大地に根ざす植物は、里芋、瓜などの野菜から、粟、黍などの穀物から、所せましとならんでいる。胡麻の花とか、唐辛子の花とか、町の住人には目にする機会がほとんどない。観賞用の植物園やガーデニングの公園に植えてあるのも、あまり見かけない。下の写真は、下総名産、落花生の花です。さて、これがどうやって殻入りのピーナッツになるのでしょうか?


 

「食べる」ばかりではない、「織る・[紙を]すく」「染める」「治す[薬]」「道具をつくる」「塗る・燃やす」など、生活のあらゆる分野にわたる植物を6つの小地区に分けて植栽している。奥のほうに進むと、第一次変化朝顔ブームのころ長崎に来て、のちに『日本植物誌』などを著したシーボルトが持ち帰り、オランダで生き延びた5種の植物の末裔が里帰りしている。根かたに大きなカブトムシが歩いていた。

草木を本尊とする自然の宗教をとなえたいという牧野博士は、植物趣味に三徳ありとする。すなわち、第一「人間の本性が良くなる」第二「健康になる」第三「人生に寂寞を感じない」と。かくて生殖器官としての朝顔と落花生そのほかの花を観察し、本性が開発されたかどうかはさだかでないが、豊かな気分になったことはまちがいない。

炎天に堪えかねて博物館内で涼み、関連する企画展示で江戸時代の園芸書「朝顔図譜」などを見た。この「伝統の朝顔」は夏ごとに開かれている。2010年は8月3日から29日までであった。いま「人家に栽培している蔓草のアサガオは」「牽牛子(けんぎゅうし)として中国から来たもの」であり、万葉集にうたわれた「秋の七草」の「朝貌(あさかほ)の花」は一説に桔梗のことであると、『植物知識』の「キキョウ」の項にある。変化アサガオの「伝統」とは、近二百年の伝統なのである。

参考資料として、国立歴史民俗博物館*のウェブサイトのうち「歴博くらしの植物苑だより」No.287, No.288 を参照した。「くらしの植物苑観察会」のレジュメで、それぞれ第136回(2010年7月24日)岩淵令治「江戸の変化朝顔」、および第137回(同年8月28日)仁田坂英二「芸をする朝顔」である。

江戸はじめての「朝顔図譜」である『あさかほ叢』(1817年、文化十四年)が、図録『"朝顔図譜"をよむ~『あさかほ叢』~』に翻刻・解説をそえて影印されている(国立歴史民俗博物館編、2008年)。遺伝子の突然変異のしくみもわかります。また江戸時代の絵と現代の写真を対照していて興味深い。表紙から裏表紙まで通しで44ページ、500円。

牧野富太郎著『植物知識』(講談社学術文庫、1981年)は、1949年に逓信省(のちの郵政省)から刊行された『四季の花と果実』(「教養の書」シリーズ)の改版である。「あとがき」に「いささかでも植物趣味を感ぜられ、且つあわせて多少でも植物知識を得られたならば、筆者の私は大いに満足する」とあるところから、「学術」文庫の編者が改題をおもいついたと推測される。原著は筆者未見である。
(大井 剛)