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臨床心理学科からのお知らせ

臨床心理学科からのお知らせ
どのように良くなったと判断するの?「カウンセリングがわかる~その4~」
2010年03月16日

 カウンセリングでどのように良くなったと評価するのでしょうか。良くなったと誰が評価するかという視点が大事になります。すなわち、本人か、その家族や友人などの周囲の人か、あるいはカウンセラーかによって異なってくるでしょう。

 例えば、本人が良くなったと感じているものの、家族や友人はそう感じていない場合はどうでしょう。すなわち、本人が良くなっているという実感だけでなく、家族や友人などの周囲の人が良くなっていると客観的に把握できることが大切です。あるいは、本人や周囲の人が良くなったと判断しているものの、カウンセラーとしては不眠や過食など本人があまり自覚していない症状が表れている場合はどうでしょう。このように、専門家としてはその病気によって特有の経過や状態がありますので、それらを踏まえたうえで良くなったかどうかを慎重に判断しています。例えば、うつ病の回復前期に自殺率が高まります。本人も周囲も調子が良くなって一安心しているところに、本人の希死念慮が強くなり、自殺を完遂するリスクが高まるとされています。したがって、心理治療を終了する際には、自己中断するのではなく、カウンセラーとよく相談したうえで判断されることをお勧めします。

 また、何を基準にして良くなったかを判断するのでしょうか。これを考えるときに二つの視点が有用です。それは、質的な変化と量的な変化です。質的な変化とは、あまり目に見えるものではないですが、問題が解決した、コミュニケーション能力が向上した、仕事の能率が向上した、日常のストレスにうまく対処できるようになった、人間的に成長した、自信が付いた、自分のことをより理解できるようになった、と実感が伴うような変化のことです。また、量的な変化とは、数値で表される変化のことであり、治療終了時に心理検査の得点が平均内に収まっていることが目安となります。例えば、うつ病の場合、(a)Zungの自己報告式抑うつ尺度(ZSRS; Zung, 1965)が50点以下であること(Oei & Yoeh, 1999)、(b)ハミルトンうつ病評価尺度(HRSD; Hamilton, 1967)が7点以下であること(Santor & Kusumakar, 2001; Zimmerman, Posternak, & Chelminski, 2005)、(c)アウトカム質問紙(OQ; Lambert et al., 1996)において治療前後で15点下がっており、治療後の得点が63点以下であること(Kadera, Lambert, & Andrews, 1996)、(d)GAF得点が70点以上であること(Erikson, Feldman, & Steiner, 1997)となっています。うつ病と回復の間は目に見えるような明確な変化はありませんので、本人としては回復の実感があまりないというのが実情でしょう。というのは、このような客観的な得点の変化があったとしても、本人にはだるさや無気力感が数ヶ月以上続くのは非常によくあることだからです。したがって、こうした心理検査の得点は一応の目安として自信を付けるためのものくらいに考えておきましょう。

 以上のように、誰が良くなったと判断するのか(主体的と客観的)、どのような変化を捉えるのか(質的と量的)の基準があります。家族や友人などの周囲の人は本人の抱えている問題についてどうしても目で見える客観的で量的な基準を用いて判断してしまいがちです。もちろん、カウンセリングは社会的なニーズに応じて透明性や効率性を高めるために努力をしなければなりませんが、こころの状態はそう簡単に目に見えるものではありません。本人のごくわずかな変化をともに喜び合えるような寛容な態度で見守ってあげてください。

(臨床心理学科 石村郁夫)