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臨床心理学科からのお知らせ

臨床心理学科からのお知らせ
★悲しみが乾くまで(2008)「映画で感じるこころの世界」
2010年07月30日

スサンネ・ビア 監督 「悲しみが乾くまで」(2008)
キーワード:家族関係,対象喪失,悲嘆,薬物中毒


この映画は,夫をなくした女性とその亡くなった夫の親友が,ともに支えながら悲しみを乗り越えていく物語です。

この映画の主役の一人オードリー(ハル・ベリー)は,夫のブライアン(デビッド・ドゥカブニー)と二人の子どもとともに,平穏で幸せな生活を送っていました。しかし,ある日突然,夫のブライアンはケンカの仲裁に入って射殺されてしまいます。突然の訃報を聞いてオードリーは混乱状態に陥ります。そんな中,夫の親友だったジェリー(ベニチオ・デル・トロ)のことを思い出して,ブライアンの葬儀にジェリーを呼ぶことにします。ジェリーは元弁護士でしたが,麻薬に溺れ,自滅的な生活を送っていました。周囲の誰もがジェリーのことを見放していましたが,ブライアンは死ぬまで親友として付き合い,ジェリーの面倒を見ていました。オードリーはそんな夫の唯一の親友だったジェリーを葬儀に呼ぶと,ジェリーはあっという間に子どもたちと打ち解け,初めて会ったはずの子どもたちのことをブライアンから聞いて色々と知っていました。

オードリーはそんなジェリーの姿に亡きブライアンの姿を重ねます。ブライアンを失ったオードリーは喪失感に耐えかねて,ジェリーに一緒に暮らさないかと提案し,ジェリーは迷って末にオードリー家族と暮らすことになります。

共同生活が始まってからしばらくは,それなりに平穏な日々が過ぎていき,ジェリーは麻薬を絶ち切り社会復帰への道を歩み始めます。しかし,日々を重ねるにつれ,オードリーが予想していた以上に子どもたちがジェリーを必要としていることがわかり,ショックを受けます。

オードリーのショックは,子どもたちの心のなかからブライアンが消え去ってしまうのではないかという不安があったからなのかもしれません。

ショックを受けたオードリーは,ジェリーを自宅から追い出します。そして,ジェリーはショックのあまり再び麻薬に手を染めて退廃的な生活に戻ってしまいます。ジェリーの様子を知ったオードリーは,自分の行ったことの重大さに気づき,再びジェリーを家に呼び,懸命の麻薬治療を行ないます。そしてジェリーは,オードリーや子どもたちに支えられて回復し,施設に入所して更生の道を歩もうとするところで映画は終ります。



この映画では,最愛の人を失った悲しみ,すなわち「悲嘆」がテーマとして描かれています。
哲学者のアルフォンス・デーケンによると,このような「悲嘆」は,精神的な麻痺状態から怒りや空想などを経て少しずつ立ち直っていくプロセスを経ていきます。

ブライアンを失ったオードリーの精神状態は,まさにパニック状態でしたが,ジェリーに精神的に支えられることでパニック状態を脱することができたのかもしれません。パニック状態の時には,頭がぼんやりしたり,考えがまとまらなかったりするので,現実を直視することが難しいですが,オードリーはパニック状態を脱することで現実を直視することができるようになり,皮肉にもジェリーを追い出すことにしまったのかもしれません。

また,劇中ではジェリーが麻薬の離脱症状に苦しむ姿が描かれています。ジェリーは薬物中毒者の自助グループ(薬物中毒を体験した人が,自分の体験を語り合って支え合い,薬物中毒から脱出することを目的にしているグループ。日本にもあります)に参加して,自分なりに薬物から離れようとしますが,オードリーから見放された時に,ショックで自暴自棄になってしまい,その結果,再び麻薬に手を染めることになります。この映画では,麻薬は一度手をつけてしまったらなかなかやめることが出来ないこと,麻薬をやめようとすると,大きな苦しみが伴うことも描かれています。

最愛の人を失う苦しみを乗り越える過程で,人は誰かを傷つけてしまったり,自暴自棄になったりすることもあります。
突然の喪失であるほど,ショックもまた大きいものです。
映画では,オードリーはジェリーを傷つけ,ジェリーは麻薬に手を染めました。このような行動もまた,愛する人を失ったことによる反応なのであり,人間のもろさの現れなのかもしれません。しかし,最終的にはジェリーはオードリーに支えられることで,オードリーはジェリーを支えることで,再び新しい人生を歩き始めることができました。このように,人間はもろさだけではなく,立ち直っていく強さも持っているのだなぁと改めて思いました。

(臨床心理学科 山口正寛)