最近の興味関心:「オンライン相談の可能性と課題」(佐藤 章子特任教授)
2025年11月6日
皆さんは「カウンセリング」という言葉を聞いたとき、どのような場面を思い浮かべるでしょうか。カウンセラーとクライエントが面接室で向かい合って話をしているイメージを持つ方が多いかもしれません。もともとカウンセリングは対面での相談が主流でしたが、通信情報技術の発達や、コロナ禍で対面相談が難しかった状況をきっかけに、オンライン相談が急速に広まりました。
オンライン相談にはいくつかの種類があります。電話やメール、SNSを活用した相談、さらにはビデオ通話での相談も可能で、それぞれ特徴があり、利用する人のニーズに応じて選ばれています。
例えば、電話やメール、SNSでの相談では、名前を名乗らずに利用できる匿名性、顔を見せなくても話せる安心感、そして場所を選ばず簡単にアクセスできる便利さがメリットとして挙げられます。特に電話相談は緊急性の高い状況で活用でき、自殺予防の相談などにも有効だとされています。SNS相談に関しては、若者がアクセスしやすい手段として自治体での導入が進んでいます。その一方で、電話は音声だけの情報、メールやSNSを用いた相談では文字のみのやりとりになるため、相手の表情のような非言語的情報が得られないというデメリットもあります。
ビデオ通話相談は顔を見ながら声を聞くことができるため、メールや電話に比べて相手の表情や態度のような、より多くの非言語的情報を感じ取ることができる相談方法です。しかし、対面相談と比べるとまだ限界があると言われています。具体的には、画面越しのやりとりでは、見える範囲が身体の一部に限られているため、ジェスチャーをより大きくするなどの技術が必要となります(Russell & Essig,2020)。また、オンラインでは共有しづらい「その場の空気感」や「身体性」といった要素についても課題とされています。
これまでオンライン相談は、対面相談よりも一段下のものとみられることが多い傾向がありました(富樫,2024)。しかし近年、特定の問題に対してオンライン相談が対面相談と同等な効果があることを示す研究が増えています。たとえば、パニック障害や広場恐怖症に対して、対面相談と同程度の効果を得られることが示唆されました(Bouchard et al., 2020)。また岩壁(2022)は、自身の専門とする加速化体験力動療法の研究過程において、コロナ感染が広がり、対面からオンライン相談に切り替えた際の効果の検証を行い、対面とオンラインで有意差が認められなかったことから「自身の対面の優位性という思い込みを大きく修正することになった」と述べています。
これまで、心理的な問題を抱えた人々がどこに相談に行ったらいいかわからない、と心理支援につながらない問題が長年指摘されてきました。オンライン相談の普及は、対面相談ではアクセスが難しかった状況や、心理的に敷居が高かった人々にも支援を届ける可能性を広げています。一方で、オンライン相談では、対面相談と比べて非言語的な情報や共有しづらい感覚的な要素に限界があるため、慎重な運用が欠かせません。
オンライン相談と対面相談のそれぞれの特性を深く理解し、オンライン相談を対面相談の「代替手段」を超えた選択肢の一つとして活用することで、困難に直面している一人ひとりに必要な心理支援を届ける環境の構築を目指していけるのではないでしょうか。
教員プロフィール
佐藤 章子 応用心理学部 臨床心理学科 特任教授
東京都立大学大学院 修士(心理学)
慶応義塾大学 文学士
【所属学会】
日本ロールシャッハ学会・日本心理臨床学会・日本精神分析学会・日本学生相談学会
(臨床心理学科)
皆さんは「カウンセリング」という言葉を聞いたとき、どのような場面を思い浮かべるでしょうか。カウンセラーとクライエントが面接室で向かい合って話をしているイメージを持つ方が多いかもしれません。もともとカウンセリングは対面での相談が主流でしたが、通信情報技術の発達や、コロナ禍で対面相談が難しかった状況をきっかけに、オンライン相談が急速に広まりました。
オンライン相談にはいくつかの種類があります。電話やメール、SNSを活用した相談、さらにはビデオ通話での相談も可能で、それぞれ特徴があり、利用する人のニーズに応じて選ばれています。
例えば、電話やメール、SNSでの相談では、名前を名乗らずに利用できる匿名性、顔を見せなくても話せる安心感、そして場所を選ばず簡単にアクセスできる便利さがメリットとして挙げられます。特に電話相談は緊急性の高い状況で活用でき、自殺予防の相談などにも有効だとされています。SNS相談に関しては、若者がアクセスしやすい手段として自治体での導入が進んでいます。その一方で、電話は音声だけの情報、メールやSNSを用いた相談では文字のみのやりとりになるため、相手の表情のような非言語的情報が得られないというデメリットもあります。
ビデオ通話相談は顔を見ながら声を聞くことができるため、メールや電話に比べて相手の表情や態度のような、より多くの非言語的情報を感じ取ることができる相談方法です。しかし、対面相談と比べるとまだ限界があると言われています。具体的には、画面越しのやりとりでは、見える範囲が身体の一部に限られているため、ジェスチャーをより大きくするなどの技術が必要となります(Russell & Essig,2020)。また、オンラインでは共有しづらい「その場の空気感」や「身体性」といった要素についても課題とされています。
これまでオンライン相談は、対面相談よりも一段下のものとみられることが多い傾向がありました(富樫,2024)。しかし近年、特定の問題に対してオンライン相談が対面相談と同等な効果があることを示す研究が増えています。たとえば、パニック障害や広場恐怖症に対して、対面相談と同程度の効果を得られることが示唆されました(Bouchard et al., 2020)。また岩壁(2022)は、自身の専門とする加速化体験力動療法の研究過程において、コロナ感染が広がり、対面からオンライン相談に切り替えた際の効果の検証を行い、対面とオンラインで有意差が認められなかったことから「自身の対面の優位性という思い込みを大きく修正することになった」と述べています。
これまで、心理的な問題を抱えた人々がどこに相談に行ったらいいかわからない、と心理支援につながらない問題が長年指摘されてきました。オンライン相談の普及は、対面相談ではアクセスが難しかった状況や、心理的に敷居が高かった人々にも支援を届ける可能性を広げています。一方で、オンライン相談では、対面相談と比べて非言語的な情報や共有しづらい感覚的な要素に限界があるため、慎重な運用が欠かせません。
オンライン相談と対面相談のそれぞれの特性を深く理解し、オンライン相談を対面相談の「代替手段」を超えた選択肢の一つとして活用することで、困難に直面している一人ひとりに必要な心理支援を届ける環境の構築を目指していけるのではないでしょうか。
教員プロフィール
佐藤 章子 応用心理学部 臨床心理学科 特任教授
東京都立大学大学院 修士(心理学)
慶応義塾大学 文学士
【所属学会】
日本ロールシャッハ学会・日本心理臨床学会・日本精神分析学会・日本学生相談学会
(臨床心理学科)
