東京成徳学園創立100周年コラム「100」―100年の鼓動、そして「徳」の循環―

世紀を越える「一歩」の積み重ね
100年という月日は、単なる時間の堆積ではありません。それは、時代が激変する中で、変わらぬ本質を守り抜いた「意思の跡」です。
かつて自動織機から始まったトヨタグループも、今や100年を超える歴史を刻んでいます。創業者・豊田佐吉から息子の喜一郎へと受け継がれたのは、単なる「車を作る技術」ではありませんでした。「産業報国」、すなわち「事業を通じて世の中の役に立つ」という、強烈なまでの利他の精神です。
トヨタには「豊田綱領」という指針がありますが、その第一項には「上下一致、至誠業務に服し、産業報国、実業の礎たるべし」とあります。自分たちの利益よりも先に、国家や社会の幸福を考える。この「誰かのために」という姿勢があったからこそ、幾多の危機を乗り越え、世界から信頼される存在へと登り詰めたのです。
「徳」は、分かち合うことで枯れない
東京成徳学園が今日、創立100周年という記念すべき節目を迎えられたのも、その根底に「成徳」という揺るぎない精神が流れていたからに他なりません。
「徳」という言葉は、不思議な性質を持っています。物理的な財産は使えば減りますが、精神的な「徳」は、誰かのために使うことで初めて磨かれ、より大きな力となって循環し始めます。自分一人のために蓄える徳は、いつか淀み、枯れてしまいます。しかし、他者の苦しみに寄り添い、誰かの人生を照らすためにその力を使うとき、徳は尽きることのない泉となり、組織を、そして未来を支える礎となります。
臨床心理学の繁栄と、魂の救済
特に、本学が誇る「臨床心理学」の領域において、この「徳」の精神は最も純粋な形で結実します。
心の闇に耳を傾け、迷える魂の伴走者となる臨床心理士の仕事は、まさに「自らの徳を他者に差し出す」行為そのものです。科学的な知見や技術(スキル)は羅針盤にすぎません。暗闇に沈む人を真に救うのは、対峙する相手の幸せを心から願う、支援者の「徳」の深さです。
臨床心理学という学問が、この成徳の地でさらなる繁栄を遂げることは、現代社会という複雑な迷宮に、確かな救いの光を灯し続けることを意味します。学生たちが、ここで得た叡智を「誰かのために」振るう術を学ぶとき、本学の歴史は単なる記録を超え、次世代を救う生きた物語へと昇華していくのです。
次の100年へ向けて
「成徳」の名の下に集う我々が、自らの徳を惜しみなく他者のために使い、その連鎖が豊かな社会を醸成していく。その美しい循環の中心に、常に本学があることを確信しています。
徳は孤ならず、必ず隣あり。他者のために尽くすその精神こそが、次の100年もまた、本学を気高く、そして力強く支え続ける光となると信じてやみません。
2026年2月28日
執筆者
応用心理学部 臨床心理学科
石村 郁夫准教授
100年という月日は、単なる時間の堆積ではありません。それは、時代が激変する中で、変わらぬ本質を守り抜いた「意思の跡」です。
かつて自動織機から始まったトヨタグループも、今や100年を超える歴史を刻んでいます。創業者・豊田佐吉から息子の喜一郎へと受け継がれたのは、単なる「車を作る技術」ではありませんでした。「産業報国」、すなわち「事業を通じて世の中の役に立つ」という、強烈なまでの利他の精神です。
トヨタには「豊田綱領」という指針がありますが、その第一項には「上下一致、至誠業務に服し、産業報国、実業の礎たるべし」とあります。自分たちの利益よりも先に、国家や社会の幸福を考える。この「誰かのために」という姿勢があったからこそ、幾多の危機を乗り越え、世界から信頼される存在へと登り詰めたのです。
「徳」は、分かち合うことで枯れない
東京成徳学園が今日、創立100周年という記念すべき節目を迎えられたのも、その根底に「成徳」という揺るぎない精神が流れていたからに他なりません。
「徳」という言葉は、不思議な性質を持っています。物理的な財産は使えば減りますが、精神的な「徳」は、誰かのために使うことで初めて磨かれ、より大きな力となって循環し始めます。自分一人のために蓄える徳は、いつか淀み、枯れてしまいます。しかし、他者の苦しみに寄り添い、誰かの人生を照らすためにその力を使うとき、徳は尽きることのない泉となり、組織を、そして未来を支える礎となります。
臨床心理学の繁栄と、魂の救済
特に、本学が誇る「臨床心理学」の領域において、この「徳」の精神は最も純粋な形で結実します。
心の闇に耳を傾け、迷える魂の伴走者となる臨床心理士の仕事は、まさに「自らの徳を他者に差し出す」行為そのものです。科学的な知見や技術(スキル)は羅針盤にすぎません。暗闇に沈む人を真に救うのは、対峙する相手の幸せを心から願う、支援者の「徳」の深さです。
臨床心理学という学問が、この成徳の地でさらなる繁栄を遂げることは、現代社会という複雑な迷宮に、確かな救いの光を灯し続けることを意味します。学生たちが、ここで得た叡智を「誰かのために」振るう術を学ぶとき、本学の歴史は単なる記録を超え、次世代を救う生きた物語へと昇華していくのです。
次の100年へ向けて
「成徳」の名の下に集う我々が、自らの徳を惜しみなく他者のために使い、その連鎖が豊かな社会を醸成していく。その美しい循環の中心に、常に本学があることを確信しています。
徳は孤ならず、必ず隣あり。他者のために尽くすその精神こそが、次の100年もまた、本学を気高く、そして力強く支え続ける光となると信じてやみません。
2026年2月28日
執筆者
応用心理学部 臨床心理学科
石村 郁夫准教授